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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)11927号 判決 1970年6月22日

原告 港信用金庫

右代表者代表理事 中西文雄

右訴訟代理人弁護士 高山平次郎

同 小山勲

被告 山中恕也

主文

被告は原告に対し金七一八万八三四四円およびこれに対する昭和四一年四月一日から完済まで日歩六銭の割合による金員の支払をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

原告は主文第一・二項同旨の判決および仮執行の宣言を求め、その請求の原因として次のとおり陳述した。

原告は昭和三九年七月二八日訴外株式会社ノザワに対し金七二八万六四四七円を利息日歩二銭五厘、弁済期日昭和三九年一一月五日期限後の損害金日歩六銭として貸与し、被告は同日訴外会社の右債務につき連帯保証した。

しかるところ、訴外会社は内金九万八一〇三円と昭和四一年三月三一日までの利息、損害金を支払ったのみであるから残金七一八万八三四四円とこれに対する昭和四一年四月一日以降の約定利率による遅延損害金の支払を求める。

被告は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として請求原因事実を否認すると述べ抗弁として次のとおり陳述した。

原告主張の債権は原告と訴外会社間の銀行取引により生じたものであるから五年間の権利不行使により時効消滅すべきものであるところ、本件消費貸借においては「借用期間中であっても原告の都合により元利金の一部又は全部の弁済の要求があったときは何時でもこれに応じ返済しなければならない。」とされており原告は契約成立の時より何時でも任意に権利を行使し得るものであるから昭和三九年七月二八日の契約成立日より五年を経過した昭和四四年七月二八日をもって本訴請求債権は時効により消滅したものである。

仮にしからずとするも右契約においては「元利金の返済又は利息の支払を怠ったときは債務者は期限の利益を失なう。」ものとされているところ、訴外会社は第一回の利息の支払をしていないから昭和三九年七月末日をもって期限の利益を喪失したものというべく、本訴請求債権は昭和三九年八月一日から五年を経過した昭和四四年八月一日をもって時効により消滅している。

立証≪省略≫

理由

≪証拠省略≫によれば、原告主張の事実全部を認めることができ、右認定を左右するに足る証拠はない。

よって、被告の抗弁について判断する。

≪証拠省略≫によれば、被告主張のとおり、債権者たる原告は借用期間中であっても何時でも元利金の返済を求め得る旨の特約(契約書第四項)がなされておることは明らかであるが、かかる特約をした趣旨はこれを明らかにする資料はない。しかし、少くとも債務者において借用期間中でも弁済を要求されてもやむをえない事由がないのに債権者たる原告は弁済請求をすることはできないと解するのが相当である。もし、そうでなければ≪証拠省略≫によって認められるように、一方において確定の弁済期限が定められておるのみならず、一定の事由があれば債務者が期限の利益を失う旨の特約がなされている趣旨を合理的に解することができないのである。したがって、本件消費貸借が契約成立と同時に消滅時効の進行が開始することを前提とする被告の抗弁は到底採用できない。

次に≪証拠省略≫によれば、被告主張のとおり、債務者が利息の支払を怠ったときは期限の利益を失わしめる特約のあることも明らかである。しかしながら、債務者の懈怠による期限の喪失の約款ある場合においても、債権者において右約款に基き確定期限前に弁済を求める意思を表明しない限り消滅時効の進行を開始しないものと解するのが相当であるから、これに反する見解に基づき原告において右の意思表明のあったことの主張立証ない以上被告の抗弁は採用しない。

しからば前認定の事実に基づき一部弁済を受けたことを自認しこれを控除した残元金およびこれに対する約定利率による遅延損害金の支払を求める原告の本訴請求は理由あるをもって正当として認容し、民事訴訟第八九条、第一九六条により主文のとおり判決する。

(裁判官 綿引末男)

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